TASCAM DR-701D 使用記
DMC-GH4との組み合わせ

小型軽量高音質、RECトリガー連動のスグレモノ

2016.3.1作成

一眼カメラ動画と同時録音

一眼カメラが動画の世界に広く浸透し、マイク入力を備える機種が増えてきました。しかし、そのマイク入力は民生機器向けのステレオミニジャックであることがほとんどであり、ファンタム電源が必要なショットガンマイクや平衡出力のワイヤレスピンマイクなどを、そのまま接続することはできません。

同時録音に高い品質を求められる場合には、ミキサーやリニアPCMレコーダーを併用します。このページでは、従来からのポータブルミキサーを併用する例をあげつつ、最新の一眼カメラ用リニアPCMレコーダー TASCAM DR-701Dを紹介します。
(注:ステルスマーケティングの類ではなく、私個人が好き勝手に書いている記事です。)

ポータブルミキサーを一眼カメラに接続する方法

まずは、ビデオカメラ取材でよく使うポータブルミキサーを、一眼カメラに接続する方法です。

画像1-1 GH4にポータブルミキサーを組み合わせる際の設定例(方法としては間違っていませんが、SN比の面でお薦めの設定ではありません)

画像1-1は、Panasonic DMC-GH4にPROTECH FS-305を組み合わせたときの設定例です。平衡から不平衡への変換は、簡易的に3番ピン(COLD)を1番ピン(GROUND)に落としました。FS-305の平衡MASTER OUTは電子バランスですが、出力レベルを-60dBmにするためにPAD(アッテネーター)を入れているため、内部バッファアンプのCOLD側をショートさせる問題は無いと考えられます。

この設定でGH4にて記録された1kHzのレベルは、実測で-19.20dBFSでした。実用上、問題のないレベルです。しかし無音時のノイズが少し気になりました。GH4のマイク入力に適当な終端抵抗のみを接続してもノイズが乗ります。このノイズはGH4のマイクレベル設定を下げると小さくなります。

未検証ですが、FS-305の不平衡SUB OUT(-10dBs)に連続可変できるアッテネーターを接続してGH4に入力し、GH4のマイクレベル設定を-12dBにしたときに-20dBFSで記録できるよう調整すると、良い結果が得られるかもしれません。

また、GH4のマイク入力は貧弱な樹脂製3.5mmジャックなので、強度に不安があります。無理な力が加わらないよう配慮が必要です。

汎用のリニアPCMレコーダを使用する方法

一眼カメラ内蔵マイクによる録音はポスプロ時のガイド用と割り切り、作品で使用する音声はリニアPCMレコーダーで録音します。映像ファイルと音声ファイルのタイミングを合わせる手間は増えますが、うまく使いこなせば高い音声品質が得られます。3チャンネル以上の録音機能を持つレコーダーを使用すると、複数のマイクをミックスせずにバラバラに収録することが可能で、ポスプロ段階でじっくりとミックスバランスを吟味できます。

画像1-2 GH4とTASCAM DR-680を併用した例

画像1-2は、自主制作短編の撮影の様子です。技術スタッフは私だけなので、カメラとレコーダーを一人で操作します。カメラワークの都合でレコーダーの操作ができないときは、演出さんや制作さんや美術さんなど他のスタッフさんに、録音スタートとストップの操作をお願いします。

録音のし忘れは滅多にありませんが、停止し忘れて巨大な音声ファイルが出来上がっていたり、バッテリー残量の低下に気づかず、本番中に止まってしまうミスが過去に何度かありました。

一眼カメラ向けリニアPCMレコーダー TASCAM DR-701D

TASCAM DR-701Dは、一眼カメラによる映像制作向けに開発されたリニアPCMレコーダーです。一眼カメラに取り付け可能なコンパクトな筐体で、4チャンネルの収録が可能です。このレコーダーの注目すべき点は、カメラのHDMI出力を接続することで、動画の記録と連動した録音動作が可能なことです。映像と同じタイムコードが記録できるうえ、A/D変換のクロックも映像(HDMI信号)に同期します。

一眼カメラと汎用のリニアPCMレコーダーを併用する際の問題が、ほとんど解消される優れものです。予算ゼロの自主制作のために導入するのは難しかったのですが、予算のつく撮影(インタビュー収録)で必要になり、導入が実現しました。

画像1-3 DR-701D パッケージ

導入から取材予定日まで余裕が無かったので、急ぎ足で動作確認と調整を行いました。

ファームウエアの更新と動作確認

納品されたDR-701Dのファームウェアは、一世代古いものでした。最新のファームウェアをメーカーウェブサイトからダウンロードし、説明書に従ってインストールしました。

画像1-4 DR-701D アップデート画面

ファームウェアをアップデートしたのち、基本的な動作確認を一通り確認しました。DR-680を導入したときにはリミッターが正常動作しない不具合が見つかりましたが、今回は問題なさそうです。

なお、ファームウェアのアップデート時に電源断などのトラブルが起きた場合、最悪の場合は使用不能となって修理が必要になる可能性があります。また、ファームウェアに新しいバグが潜んでいる可能性もゼロではありません。そのため、使用予定が詰まっているなど時間的な余裕が無く、現状のファームウェアにて特に問題なく使用しているときには、 無理に最新版のファームウェアにアップデートしない方が無難です。

GH4と組み合わせる際の信号レベル設定

DR-701Dには、一眼カメラのマイク入力向けに細かくレベル調整が可能な音声出力があります。この出力を使用することで、DR-701Dに入力された4つのソースを任意のバランスで2チャンネルにミックスし、GH4で記録することが可能です。正しくレベルのマッチングをとれば、GH4で記録した音声でも必要十分な品質が得られると考えられます。DR-701DとGH4との接続には、あえて細くて貧弱なケーブルを用いることで、マイク入力端子へ無理な力がかかることを防いでます。

画像1-5 GH4とDR-701Dの接続には、できるだけ細く柔らかいケーブルを使用

ノイズが少なく音割れのない最良の品質で録音するためには、双方のレベル調整が重要です。本来は仕様表から基準レベルや最大入力レベルを調べて計算するべきですが、GH4のマイク入力について詳細な仕様が公開されていません。いくつかの設定を試した結果、画像1-6の設定(DR-701Dのカメラ出力レベル:-7dB、GH4のマイクレベル設定:-12dB)で良い結果が得られました。

画像1-6 DR-701D(左)とGH4(右)のレベル調整画面

この結論を得るに至るまでに行った実験のうち、いくつかのデータを抜粋して表を掲載します。

表1 DR-701のオシレーターから-20dBFS 1kHzを送出したときのGH4記録MOVファイルの音声レベル
  DR-701D
カメラ出力レベル(dB)

DMC-GH4
マイクレベル(dB)

GH4記録MOVファイルの
CH-L ピークレベル(dBFS)
GH4記録MOVファイルの
CH-R ピークレベル(dBFS)
A 0 0 -2.32 -1.89
B -19 0 -21.11 -20.67
C -7 -12 -20.89 -20.61

表1のAの結果から、初期設定のままでは約18dB高いレベルで記録されていることがわかります。LとRに偏差があり若干Rのレベルが高めなので、少し余裕をもたせて19dB減衰させれば問題ないと考えられます。

BはDR-701D側だけで19dBレベルを下げた場合、CはGH4のレベル調整を一番低い-12dBとして不足分の7dBをDR-701D側で減衰させた場合です。BとC共に、記録レベルは期待通りになりました。しかし、Bの設定ではノイズが少し目立ちます。BとCそれぞれのノイズレベルを簡易的に調べた結果が表2のDとEです。

表2 DR-701の入力を全て絞りMUTE状態のときのGH4記録MOVファイルの音声レベル
  DR-701D
カメラ出力レベル(dB)
DMC-GH4
マイクレベル(dB)
GH4記録MOVファイルの
CH-L RMSレベル(dBFS)
GH4記録MOVファイルの
CH-R RMSレベル(dBFS)
D -19 0 -62.07 -62.13
E -7 -12 -71.18 -71.38

表2のDとEを比較し、Eの方がDよりも9dB程度ノイズが少ないことがわかりました。念のため、表2のEの設定で0dBFS付近での信号クリップ有無も確認しました。外部のオシレーターから1kHzの正弦波をDR-701Dに送り、0dBFSまでレベルを持ち上げてみましたが、DR-701Dが0dBFSに達する前にGH4の記録音声がクリップすることはありませんでした。

GH4とDR-701Dの組み合わせでは上記のような結果になりましたが、他の機種との組み合わせでは同じような理屈でうまく行くとは限りません。例えばDR-701Dの出力レベル調整には段階的に「ハードウェアでのゲイン切り替え」のポイントがあり、そこを境としてノイズ特性が大きく変化します。

レベル整合が取れる設定値がちょうどハードウェアゲインが上がった直後だった場合には、ハードウェアゲインが上がらないレベルまでゲインを下げて収録した方が良い結果が得られる可能性があります。

GH4は、マイクレベル設定を0dBから1dBにゲインをあげるポイントで、ノイズが3dB程度増加します。また、GH4は問題ありませんでしたが、録音レベル設定をかなり下げた状態では、記録レベルがフルビット(0dBFS)に到達する前に信号がクリップしてしまうカメラもあります。

民生機は規格がまちまちで詳細な仕様が公開されていないことが多く、機器ごとの特性を自力で調べないと最良の設定値にたどり着けません。その点、業務用の機材は「ラインレベルは+4dBm」というように規格がしっかりしているため、民生機に比べると格段に扱いやすいのです。

DR-701D収録時のリミッター

予期せず大きな音声が入力された際の歪みを防ぐ音声リミッターは便利なものです。DR-701DのリミッターをONにすると、OFFの場合の最大レベルから+12dB高い信号までをリミッティングすることができるようです。以前から使用してるDR-680も同様です。このリミッターは、ONにすると少しだけ「サー」というノイズが大きく聞こえるようになります。

画像1-5は、DR-701DのCH1にショートプラグを差し込み、無音入力状態で記録したBWFファイル(Fs=48kHz, 24bit)のノイズレベルを計測した結果です。上段1〜3のファイルは、入力ゲインをLOWに設定し、入力レベルつまみを左に絞りきってミュートしたものです。下段4〜6は、入力ゲインをMIDに設定し、入力レベルつまみを12時の方向、50に設定したものです。SHUREのSM63を使用したインタビュー時に、おおよそ適正なレベルとなる設定です。それぞれ、LIM-OFFはリミッターOFF、LIM-ONはリミッターON、LIM-3BはマルチバンドリミッターONです。

画像1-7 DR-701D 入力ショート時の残留ノイズ簡易計測結果

リミッターをONにすると、12dB程度ノイズが増加します。推測ですが、AD変換前に12dB減衰させ、AD変換後デジタルリミッターを通した後に12dB増幅しているためと考えられます。マルチバンドリミッターを使用すると更に少しノイズが増加するようですが、詳細な仕様がわからないので原因もわかりません。

裏を返せば、録音レベルをいつもより12dBほど低くしてリミッターOFFで収録し、ポスプロ時にコンプやリミッターの処理をした方が融通が利くともいえます。

DR-701Dの出力をカメラで収録した音声を使用する場合は、表2のEからわかるようにカメラ側で記録されるノイズがDR-701DのリミッターONによるノイズ増加量を大きく上回りますので、収録時にリミッターをかけた方が有利です。

実際の収録にて

今回、GH4と組み合わせてDR-701でインタビューを収録するにあたり、audio-technicaのデジタルワイヤレスマイクATW-1701を使用しました。2.4GHz帯を使用するため、無線LANを使用したパソコンやルーターに極端に接近させて使用すると音途切れが発生しますが、その欠点を除けば価格からは想像できないほどクリアな音声が収録できます。

画像1-8 audio-technicaのデジタルワイヤレスマイクATW-1701

撮影素材をそのまま納品するため、GH4で収録したMOVファイルの音声が作品で使用されます。そこで、DR-701Dのミキサー機能を使用し、CH1に接続したワイヤレスマイクを左チャンネル、CH4の内蔵マイク(R)を右チャンネルに送りました。一般的なビデオカメラで収録する際の「カメラマイク」として、DR-701D内蔵マイクを使用した形です。DR-701D側では、CH1〜4の録音はOFFにし、バックアップ用にステレオミックスのみ収録しました。必要性は高くなかったのですが、保険でリミッターをONにしました。

画像1-9 CH1のピンマイクをL、CH4の内蔵マイクをRにアサインし、MIXトラックのみを収録

ATW-1701のバランス出力は民生機のラインレベルにほぼ近いため、DR-701Dのゲイン設定は少し悩みます。今回はごく普通の会話程度の音量での収録だったため、DR-701D側のゲインは「LINE」ではなく「LOW」、ATW-1701送信機のレベルは最大、受信機の出力アッテネータは0dB(減衰なし)でちょうど良いレベルでした。

画像1-10 小型三脚の上に取り付けたDR-701DとGH4

機材協力:くつした企画

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